宮崎地方裁判所 昭和55年(タ)18号 判決 1983年11月29日
原告 三次美津子
被告 三次義充
主文
一 原告の財産分与の申立を却下する。
二 原告と被告とを離婚する。
三 原被告間の長男啓充(昭和四二年六月二七日生)の親権者を原告と定める。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は二分し、その一を原告のその余を被告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
1 主文一、二項同旨
2 被告は原告に対し、別紙物件目録一記載の土地の内九九平方メートル及び同目録二記載の土地の内二三二・〇四平方メートルを分筆の上(別紙図面斜線部分)、財産分与として所有権移転登記手続をせよ。
3 被告は原告に対し、別紙物件目録三記載の建物を財産分与として所有権移転登記手続をせよ。
4 被告は原告に対し金一、〇〇〇万円支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原被告は昭和四一年一〇月二七日婚姻届を了して夫婦となり、昭和四二年六月二七日長男啓充をもうけた。
2 原被告の婚姻生活は被告の収入が少ないことから、原告の親族の援助をうけることが多く、被告が昭和四五年自動車整備事業を開業できたのも原告の貯金約七〇万円と、原告の姉高井トシ子がその所有家屋を抵額の賃料で貸してくれたからである。原告は右事業を手伝うだけでなく、ホテルに勤務したり、みかんむきやウナギ取りなどをして生活費の不足を補つた。
3 原被告は、原告の母から手付金三〇万円を借りて別紙物件目録記載の宅地を銀行ローンで購入し、昭和五一年前記整備工場の用地が買収され、営業補償として四〇〇万円が支払われたことから、右金員と原告の母から一〇〇万円、○○○農業協同組合から一、〇〇〇万円を借り受け、右宅地に工場と別紙物件目録記載の居宅を新築し、いずれも被告名義となつている。
4 被告は、事業資金や前記融資の返済資金が不足すると、原告に金の工面をさせ、「男と寝てもよいから金を作つてこい」などという非常識さであり、原告は被告の事業の手伝いだけでなく、夜飲食店に勤めて月十数万円の収入を得て右の返済資金の一部にあてた。被告は、その間エレクトーン教師免許や、鉄砲免許をとり、女性関係もはげしく、韓国や台湾に旅行に出かけるなど遊びまわり、気に障ると原告や子供に暴力を振つた。
5 被告は、昭和五〇年から田村雪子と情交関係を結び、昭和五二年一〇月ころまで不貞を続けてきたものであり、右不貞関係の発覚によりついに原被告は別居した。被告は、同年六月頃から修理工場に出入りしていた井原幸代とも情交関係を結んでいたものであり、右別居後間もなく同人と同居し現在に至つている。
なお、被告は、別居後も時々帰宅して暴力をふるつたが、昭和五三年一月四日及び同年三月二七日の激しい暴力にはがまんできず、原告はいずれも警察に告訴し、被告は罰金等の処罰を受けた。
6 長男啓充は、昭和五二年一〇月二九日骨の病気で入院し、以後三ヶ月入院生活を送つたが、被告は看病その他一切の世話をせず、同年一一月一三日には家を出て○○町のアパートに移つた。その時の話では縁があれば将来もどつてくるということであつたので、原告は、被告がすぐに生活できるように家財道具等すべて持たせた。原告は、昭和五二年一一月以降、母子二人生活するため(被告は養育費等若干の金は入れているが)昼も夜も身を粉にして働いており、農協の借金も昭和五三年四月二〇日五〇万三、五一六円、昭和五四年一月三一日一〇七万九三円、昭和五五年四月一六日一五三万七、七二九円を支払つた。
7 (一)原被告の婚姻生活は、被告の不貞、暴行により破綻しており、原告は被告に対し離婚を求める。
(二) 長男啓充の親権者はこれまでの養育状況から考え、原告とするのが相当である。
(三) 別紙物件目録の土地建物は、結婚後別居までの間に取得したものであるが、この取得については原告の力が大きく寄与しているものであり、実質的所有権は半分以上有しているものであるところ、被告名義で登記されているので、土地については別紙図面のとおり分筆して、建物については居宅の方を財産分与し、各所有権移転登記をすることを求める。
(四) 原告は被告から筆舌に尽しがたい不貞、暴力、侮辱などによる精神的苦痛を受けており、これを慰藉するに少くとも金一、〇〇〇万円をもつて償われるべきである。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2のうち高井トシ子の所有家屋で自動車整備工場を開業し、原告がホテル勤務をしたこと、3のうち宅地の取得、4のうち原告が飲食店に勤めたこと、5のうち田村雪子との情交関係、井原幸代と現在同居していること、暴行の事実、6のうち子供の入院、別居については認め、その余は否認する。
2 原告は昭和四五年一〇月ころ被告の反対をおしきりホテルのメイドとして勤めるようになり、同年暮ころ同ホテルのフロント係新井某と鹿児島に遊びに行つたことが分かり、被告は原告との離婚を決意したが、兄弟のとりなしで、もう一度やりなおすことになつた。原告は昭和四八年ころから被告の反対をおしきりスタンドバーに勤務するようになり、昭和五三年三月ころから帰宅が遅くなり、調査の結果田辺善男、黒川某との不貞が判明した。そこで被告は原告との離婚を決意し、別紙公正証書を作成した。原告は別居後佐藤公彦を家に引き入れて情交関係を結び、その後も数名の男性と情交関係を結んだだけでなく、現在戸板明治と同棲している。被告が昭和五三年原告に暴行を振つたのは原告の右挑発行為に立腹のあまり発生したものであり、被告と井原との関係は原告と別居後のことである。三抗弁原被告間には昭和五二年一一月別紙公正証書内容どおりの合意が成立しており、原被告の離婚、財産分与、慰藉料につき既に解決ずみである。
四 抗弁に対する認否
原被告の離婚等に関し、右公正証書を作成したことは認める。
五 再抗弁
1 原告は、被告のいずれ帰つてくるとの言葉を信じ、主に別居中の生活費、借金の支払い方について明確にすべく本件公正証書の作成に同意したものであつて、公正証書作成時離婚の意思はなかつた。
2 公正証書による離婚は分与対象不動産の抵当権が消滅する一八年後に可能となるものであつて、このような長期先の離婚の約束は公序良俗に違反し無効である。
3 (イ)公正証書作成当時は、井原幸代との不貞関係がわかつておらず、離婚原因において錯誤がある。
(ロ) 公正証書の内容である負債元本の折半分は一明平等だが利息の負担は原被告間に三対一の不平等があり、財産分与において前提に錯誤がある。
4 土地の分割において面積は半分になつておらず、価値の点では道路に面した表の方が高いので更に不平等であり、又袋地となり車の入る余地もないなど公正証書の分割案は原告にとつて大変不利である。
5 原告への分割不動産の価値と負債の差額が慰藉料となる旨の説明を受けて分割案に同意したものであるが、公正証書の分割では慰藉料の出所がなく、原告の取り分は結局自分が借金払いしなければ取れないものであつて、被告に欺罔されたものである。
以上のように公正証書作成上その前提に錯誤ないし許欺があり、無効である。
六 再抗弁に対する認否争う。本件公正証書は原告が言い出して作成したものであり、詐欺、錯誤等無効又は取消原因はない。
第三証拠<省略>
理由
成立に争いのない甲第一ないし四号証、第五号証の一、第六号証の一、二、第七号証の一ないし六第一四、一五号証、乙第一号証、証人高井トシ子の証言とこれにより真正に成立したことが認められる甲第五号証の二、証人若本良男、同田辺善男、同三次正充の各証言、原告(第一回)、被告各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められ、これに反する証人高井トシ子及び原告本人の各供述は措信し難い。
1 原被告は、昭和四一年一〇月二七日婚姻届を了して夫婦となり昭和四二年六月二七日長男啓充をもうけた。
2 被告は、婚姻後原告の実家からの援助を受けるなどして自動車整備士等の資格を取得し、昭和四五年夏原被告の退職金や銀行からの借入金を資金として、原告の姉高井トシ子所有家屋を借りて自動車整備工場を開設した。
3 原告は、右工場の手伝をしていたが、昭和四五年一〇月ころからホテル○○に勤務するようになり、しばらくして同ホテルのフロント係新井某と二人で鹿児島県○○○町に出かけたり、同人方で一夜を過したことがあり、これを知つた被告から離婚の話が出たが、被告の兄のとりなしもあつて、働きに出ないことを条件によりをもどした。被告は右に関し右新井から慰藉料金五万円を受領した。
4 被告は銀行からの借入金をもつて昭和四八年九月二五日及び昭和五〇年五月一五日別紙物件目録記載の宅地二筆を取得し、昭和五一年整備工場の敷地がバイパス道路として買収されることになり、営業補償費として金四〇〇万円が支払われたことから、右金員と○○○農業協同組合(以下農協という)からの約一、〇〇〇万円の借入金をもとに右宅地上に自動車整備工場並びに同目録記載の居宅(以下本件居宅という)を新築し(右土地建物には右農協を抵当権者として極度額一、二七四万四、〇〇〇円の根抵当権が設定された。以下右土地建物を本件不動産という。)、昭和五二年六月ころ右新工場で営業を開始するようになつた。
5 被告は、整備工場を開業してから、その運営資金や銀行からの借入金の返済資金等が不足した際、原告の母から借入してこれにあてることもあつたが、右事業はしだいに順調に行くようになりエレクトーン教師免許や銃砲免許を取得するなどその生活態度に多少遊興的な面があらわれてきた。一方、原告は、働き者で、化粧品のセールスやみかんむき等のアルバイトをしたりして被告の経営を助け、借入金等の返済等経理面は担当していた。
6 原告は昭和五〇年ころ被告からその友人の経営するスタンドバーの手助けをするように頼まれ、スタンドバーのホステスをするようになり、以後被告の反対を押切り、他の店でこれを継続するようになつた。
被告は、原告が昭和五二年に入り次第に帰宅時間が遅くなつてきたことからしばしば送迎してくれる田辺善男との仲を疑り、また黒川某との間も疑わしいとの噂を聞いて、原告に離婚話を持ちかけたが、原告への未練絶ち難く、間もなく右話を撤回した。
7 原告は、同年一〇月二八日ころ、骨の異常で入院した長男啓充の見舞に訪れた田村雪子から、昭和五〇年ころから被告と情交関係を持つている旨の告白を聞き、同人を相手に右情交関係により家庭を破壊されたことを原因とする損害賠償の支払を内容とする民事調停の申立をなし、右調停は、昭和五三年一月一二日被告及び雪子の夫田村一を利害関係人として出席させ、被告が一に金一五〇万円、雪子が原告に金一〇〇万円を支払う旨の調停が成立した。
8 原被告間には右田村雪子の問題から再び離婚の話がもちあがり原被告は話し合いの結果、離婚することとし、離婚した場合、資産、負債とも折半することとなつた。原告は、被告の翻意を危惧して右合意を公正証書において明確にすることを被告に求め、被告とともに公証人役場に数回足を運び、不動産の分割については本件居宅を原告が、工場を被告が取得することとし、右居宅と工場との価額差等を考慮して、原被告立会のうえ測量をなして、その敷地部分を決め、同年一一月二四日別紙公正証書を作成した。原被告間においては、右公正証書に規定された離婚手続をとる時期は本件各不動産に設定された抵当権が、被担保債権の弁済により消滅すべき一八年後が一応の目安とされた。
9 原被告は家財道具を分割し、同年一一月一三日被告が単身家を出て別居した。原告は右別居後間もなく佐藤公彦を本件居宅に連れ込み、同人と同棲まがいのことを行ない、被告は原告の言動に立腹し、昭和五三年一月四日及び同年三月二七日原告方に出かけて原告に暴力を振い、原告が警察に告訴する事態が発生した。被告は、別居後井原幸代を雇用し、まもなく同女と情交関係を結ぶようになり、昭和五四年ころから同女と同棲するようになつた。原告は佐藤の外にも岩本良男等と情交関係を結び、戸板明治と同棲するようになつた。原告は、別居後啓充を養育してきたが、昭和五七年六月二日遊走腎、胃腸下垂等の病名で入院し、同年一一月一五日現在慢性膵炎、卵巣機能不全の病気で通院中である。
10 原告は、スタンドバー及び焼鳥屋を経営していたことがあり、別居後右公正証書に定められた農協への支払(昭和五三年四月、昭和五四年一月、昭和五五年四月、昭和五六年一月)をなすとともに、本訴提起前農協への支払総額を準備のうえ被告に対し本件各不動産の抵当権を抹消すべく他債務の一括支払を要求したところ被告が右申出を拒否した。被告は、別居後右公正証書に定められた養育費を支払つてきたが、原告が農協への支払をしなくなつた昭和五七年二月から右支払を停止した。
前記認定の事実を前提にして、以下原告の本訴各請求を検討する。
まず離婚請求につき、被告は、右問題が公正証書によつて既に解決ずみである旨主張するところ、いわゆる協議離婚は戸籍の届出によつてなすものであつて、公正証書により離婚の合意をしても離婚の効力を有するものではない。身分行為として意思の自由が尊重される離婚にあつては、右公正証書により離婚手続の履行を求めることができないことは明らかであり、右公正証書による離婚の合意は離婚の予約としての効力を有するにすぎない。身分行為に意思の自由が尊重されることは前記のとおりであり、これを不当に制約する合意は無効であり、仮に本件公正証書が当事者の離婚請求権を制限するものであるとすると、右制約は無効であつて、原告の本訴離婚請求は有効であるといわなければならない。ところで、前記認定の事実によれば、原被告の婚姻関係は既に破綻していることは明らかであり、右破綻の原因は、原告の田辺善男との妥当を欠く交際態度にもあるが、被告の田村雪子との不貞も一つの原因となつていることが認められ、原告を右破綻についての専ら又は主たる有責配偶者ということはできず、従つて、原告の本訴請求は正当である。
本件離婚に伴う未成年者の親権者指定につき検討するに、前記認定のごとく、別居後長男啓充は原告が扶養していること、本件公正証書によつても原告が親権者となることが予定されていたこと等諸般の事情を考慮すれば長男啓充の親権者は原告と定めるのが相当である。
次に離婚慰藉料並びに財産分与につき、原告は本件公正証書が無効である旨主張するので、以下検討する。
1 原告は、本件公正証書は当事者間に離婚の意思なくして単に別居中の債務負担関係を明確にすべく作成したものである旨主張するところ、前記認定のごとく、本件公正証書作成に至る原被告の事情、右作成に当つての原被告の態度、右公正証書の内容、原被告の別居状況並びに別居後の原被告の生活状況特に原被告の各異性との情交、同棲内容等からすると、本件公正証書は原被告が離婚を決意し、離婚する場合の財産分与、離婚慰藉料等を規定すべく作成したものといわなければならず、原告の右主張は失当である。
2 原告は、本件公正証書は分与対象不動産の抵当権が消滅する一八年後の離婚を規定したものであつて無効である旨主張するところ、本件公正証書第六条は離婚手続と原告への分与対象不動産の所有権移転とが同時履行の関係を規定したにすぎない。しかも法律上抵当権が設定されている不動産を財産分与することは何ら問題はなく、右規定が原告主張のごとく離婚手続を制約すべき規定とは解されず、他に右制約を規定した条項はない。もつとも、原被告間には前記認定のとおり、本件各不動産の抵当権が消滅する一八年後に離婚手続をとる予定であつたことが窺えるものの、右は一応の目安に過ぎずその間離婚手続を禁止する趣旨とは解されず、当事者間に右禁止を必要とする事情も存しない。仮に本件公正証書が当事者間の離婚を制約するものであり、右制約が無効であるとしても(右が無効であることは前記のとおりである)、右無効は離婚手続の制約が無効というにあり、離婚と関連するが、本来別事項である財産分与、離婚慰藉、子の養育費の負担が直ちに無効となるものではなく、無効部分を除外しても当事者が契約したであろうと解される事情があれば、当事者の意思を尊重し、右残余部分を有効に解釈すべきである。本件公正証書の財産分与等の内容は資産及び負債を折半するというものであつて、原被告の資産蓄積に対する寄与率及び分与対象不動産に対する原被告の必要性等を考慮すると極めて妥当な内容を有するものであり、別居後原被告が本件公正証書に定められた債務を履行していたこと等の事情からすると協議離婚以外の離婚の場合も右公正証書で定められた財産分与等の合意は効力を有するものと解すべきであり、規定の内容上これを阻害すべき事項はない。従つてこの点に関する原告の主張も失当である。
3 原告は、本件公正証書作成当時被告と井原幸代との不貞関係がわかつておらず、離婚原因において錯誤がある旨主張するところ協議離婚は当事者の合意に基づく離婚であり、裁判上離婚のごとく離婚原因は問題とならず、さらに前記認定の事実によれば被告の井原との情交関係は原被告の婚姻が破綻した後の関係であると認められ、いずれにせよ右主張は失当である。
4 原告は、本件公正証書の内容につき、原被告が折半した負債に関し、利息の負担において三対一と不公平であり、又分与すべき不動産も価値、面積において不平等である旨主張するところ、前記認定の事実によれば、原告が経理面を担当していた事実からすると右利息の相違について原告は知悉していたものと思われるだけでなく、利息の負担が三対一であるとの証拠はなく、又不動産の分割についても居宅と工場との価額差を考慮のうえ分割したものであることは前記認定のとおりであり、右をもつて右公正証書が無効であるとはいえず、右主張は失当である。
5 原告は、本件公正証書の内容では離婚慰藉料の出所がない旨主張するところ、離婚慰藉料は不法行為による損害賠償であり、従つて金銭賠償を原則とすべきであるが、当事者の合意により右金銭賠償にかえ不動産等の給付をもつてなすことができ、本件公正証書上の離婚慰藉料は被告が原告に移転すべき不動産の一部(財産分与を控除した残り部分)をもつて右賠償に当てるというものであつて、離婚慰藉料の出所がないとの主張は失当である。
本件公正証書における離婚慰藉料並びに財産分与の各規定が無効であるとの原告の主張は、右認定のごとくいずれも理由がない。
離婚にともなう財産分与は本来当事者の協議によるべきであり、右協議が調わないとき又は協議ができないときにはじめて家庭裁判所に右協議に代わる処分の請求ができるものであつて、この理は裁判上の離婚の際に付帯的に申立てられる財産分与の申立も同様である。右の認定のごとく、原被告間の財産分与契約は有効であり、右契約は離婚とともに効力を有するものであつて、原被告間の財産分与については本件公正証書によつて既に協議が調つており、本件財産分与の申立は利益がなく却下されるべきである。
離婚慰藉料請求については、本件公正証書により本来の金銭賠償にかえ不動産の一部をもつて右賠償に当てる旨の合意が原被告間に成立していることは前記のとおりであり、離婚慰藉料一、〇〇〇万円の請求は右合意(和解)に反するものであつて理由がないものといわなければならない。
以上認定のごとく、原告の離婚請求は正当であるから認容し、離婚慰藉料請求は失当であるから棄却することとし、民訴法八九条、九二条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 横山秀憲)
離婚に伴う養育費等契約公正証書
第一条 夫の三次義充を甲、妻三次美津子を乙とし、両名は今回協議のうえ離婚することを合意し次の通り契約した。
第二条 甲乙は両名間に生れた長男啓充(昭和四二年六月二七日生)の親権者を乙とし、乙はその養育費を担当する、甲はその養育費として昭和五二年一二月より同児が満一八歳に達する迄毎月一日限り金四万五千円也を乙に交付する。
なお同児は現在関節炎で入院中につき、これが全治するまで甲は治療費の半額を負担する。
第三条 乙は財産の分与及び慰謝料として甲所有の後記物件の内後記の通りその一部を取得するものとする。
第四条 次項の債務は甲、乙が折半して支払いの責に任ずるものとする。
一 後記物件中宅地二筆、居宅一筆につき
(イ) 一番抵当権者○○○農協○○支所
債務金九百一八万円也
(ロ) 二番抵当権者○○信用金庫
債務金二七〇万円也
二 仕入関係の負債
約金九〇万円也
三 乗用自動車(マツダ)未払代金
金六五万二、〇〇〇円也
四 貨物自動車(スバル)未払代金
金二七万円也
五 株式会社○○相互銀行借入残金
金一四五万円也
前記の内一の(イ)金九一八万円也を乙の、その余の金五九七万二、〇〇〇円也を甲の夫々負担とし、乙の超過支払分金一六〇万四、〇〇〇円也は甲において、昭和五二年一二月より同五七年四月まで各月二〇日を限つて各金三万円也宛、最終回のみ金四万円也を割賦支払いする。
第五条 ○○○農協に対する甲名義の出資金二〇万円也は乙に贈与する。
第六条 離婚の手続は、第三条記載の不動産について乙名義に所有権移転登記が終了と同時に行うものとする。
第七条 甲乙は以後相手方に対し、本契約以外の金銭的要求は勿論その他相手方の迷惑となるような一切の行為をしないことを相互に確約した。
第八条 甲三次義充は本証書記載の金銭債務の履行を怠つたときは直ちに全財産に対し強制執行を受けても異議のないことを認諾した。
記
一、物件の表示
(イ) 宮崎市大字○○××××番×
宅地 二六四平方メートル(甲名義登記済)
(ロ) 同市大字同××××番×
宅地 四四六平方メートル(甲名義登記済)
以上計七一〇平方メートル
(ハ) 同市大字同××××番×
××××番×
木造瓦葺二階建居宅(甲名義登記済)
一階 七七・五二平方メートル
二階 三六・一〇平方メートル
(ニ) 同市大字同××××番×
××××番×
鉄骨スレート葺工場(未登記)
二 、妻美津子(乙)の取得部分
(一) 前記一の(イ)(ロ)計七一〇平方メートルの内別添図面のとおり
<B>部分一五一・七七平方メートル
<D>部分一四二・四九平方メートル
(二) 右<B><D>上にある前記一の(ハ)の二階居宅
別紙物件目録及び引用の図面<省略>